「やぁやぁ、テンさん。初めまして。エヴィスと申します」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ、・・・・・・・えっと、どうも」

「それに『石』さんも、お久しぶりですね。何年ぶりになるんでしょう?」

「「恐らく九十年近くにはなっていますね」」

「九十年。九十年・・・・・・・・・九十年か。
早いものですね。こんな体だと時間の感覚なんて意味が無いもんで」

「・・・・・・・・・そうですね」

「そうそう、僕が何を願ったのかはご存知ですか?」

「『永遠の生命を手に入れたい』ですよね」

「そう。そうです。そうなのですよ。
そして『石』さんのおかげで永遠の生命を手に入れる事が出来ました」

「・・・・・・・・・」

「そして私はこうして永遠に生きて行く事ができるのです。本当に一生かかってもこのご恩は語りつくせませんよ」

「「どういたしまして」」

「私は学者なんですがね、当時から研究していたものは一代で結果を出せるような簡単なものではありません。
スタッフがそれを継いでいく、とは言っても私はそれを見る事が出来ません。

研究の醍醐味とは完成を目の当たりにすることだと思うのです。

自分が精魂込めて作った作品を仕上げ、世界中を驚かす。

そう言う点でわれわれは芸術家と似ているのかもしれません」

「はぁ・・・・・・・」

「もしかして私はこのまま、世界の全てを知る事が出来るんじゃないだろうか、なんても思うんですがね」

「・・・・・・・・はぁ」

「「少なくとも世界の終わりは見れるでしょうね」」

「はははははは、それはそうですね」「「ははははは」」

「・・・・・・・・・はは・・・・・・・・・は・・・」



「おっとごめんなさい私ばかりが喋ってしまって」

「一つだけお聞きしたいのですが」

「なんでしょう」



「幸せですか?」

「幸せですよ。幸せですとも。私は今まで生きてきた中で一番幸せな時を生きています。
これからもその幸せを生きていくのでしょう」

「けれどあなたは他の幸せを失っていますよね。たとえば、二本の足で歩き回ることは出来ないし、美味しいものも食べる事は出来ない」

「失った物よりも得たものの方が大きい。それを幸せと呼ぶのではないのですか?」

「・・・・・・・・・そうなのでしょうか?」

「あなたはまだ若い。分からないかもしれませんね」

「はぁ」





「一つだけお聞きしたいのですが」

「なんでしょう」



「幸せですか?」

「幸せですよ。幸せですとも。私は今まで生きてきた中で一番幸せな時を生きています。
これからもその幸せを生きていくのでしょう。

何度聞かれてもいつ聞かれても私はこう答えます。

私は幸せだ。

世界で一番幸せだ」












「私にはわからない」

研究所を出た時、テンが呟く。

「「それではあの人は幸せだと思っているんです。

それこそが一番の幸せではないですか?

幸せに気付く事が出来てそれは幸せという名前がつくのですよ」」

「それはわかってる。わかっているけどもさ

『あんな体』になってまで生きて行く事に何の意味があるんだろう」

エヴィス氏を思い出すたびに吐き気がする。

人の死体を見た事がないわけではないが、そんなものではない。生理的な嫌悪感が襲うのだ。

特殊な溶液の詰まったガラス製のチューヴに脳みそがぷかぷかと浮かび、大小さまざまな管が刺さっている。

空気と血液と栄養を送り込むのだ。

その繋がれた管のなかの二つからサーチアイが飛び出し、まるでデフォルメされたかたつむりのようだった。

そして声帯はないので脳から出る信号を機械に通し特殊なスピーカーからイントネーションの狂った作り物の声が出てくる。
(こちらの声をエヴィス氏に届けるにはその逆をやればいい)


エヴィス氏が石に出会ったのが六十六歳の時。つまり現在の彼は百五十六歳。

石に永遠の命を願ったならばそれくらい「生きる」ことは容易い。

しかし彼が願ったのは『永遠の生命』。

肉体はその生命に着いて行く事は出来ずすでに朽ち果てあのような姿でしか生きられないのだった。

いや、あんなものが無くても生きられる。というのが『石』の話だ。

脳みそが腐り果てても『彼』という存在はこの世に意志を持って生きて行く事が出来るのだと言う。

それを「魂」と呼ぶのかどうかは知らない。
「「我思うゆえに我ありというでしょう?確固たる自分がそこにあればそれは生きているのですよ」」

「なんか途方もない話だなぁ」

確固たる自分。

それは、ここにあるのだろうか






「もし今私が彼の死を願ったら、それはどうなるんだい?」

永遠の命。それの死を望む。相反する矛と盾。

「「死にます。新しい願いの方が優先されるのは古今東西自然の摂理でしょう?」」

案外に簡単なシステムだなぁとぼんやり考え、つくねの待つ馬車へと向かった。













「幸せですか?」














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はい、なんとなくキノっぽいですね

もう開き直ってみようかなぁ(遠い目

とりあえずエヴィス氏の体の事を隠す為に冒頭部分は果てしなく描写を抜いてあります。

・・・・・・・・・・・え?決して描写がめんどうだったとか、まったくそんな事はございませんよ?

 

・・・・・・・・・・・うん、いや、つーか、ねぇ?え?うん(汗





正直めんd

 



そういえば昔やってた透明人間というドラマ(たしか香取慎吾主演)で脳みそだけなやつがいた気がするんですけど。

またパクリか。

というか設定に無理がありますよね。

でもまぁ、いいじゃないですか(汗