取材テープより抜粋。
8月16日
「あー、大山?・・・うーんそうだなあ。どんな奴って聞かれても
俺も親しいってわけじゃなかったから。
うん、喧嘩だけはメチャクチャ強かったけどな。前に他の学校の奴
等と喧嘩するとき「雇った」ことがあったけど強ぇ強ぇ!俺らなん
か必要ないくらい。
んー、そうだなあ、すげぇとは思うけど仲間になろうとは
思えなかった。「仲良くなる」タイプじゃねーし。
・・・・・・(苦笑)痛いとこつくなあ、あんた。
それはあるね、あの実力を羨んでた。俺も他のやつらもそうだと思
う。でも、それで不自由したってことはなさそうだったけどなあ。
自分ひとりでも大丈夫だって感じで。「イッピキオーカミ」って
の?
そういやあ、あいつの親ってみたことないなあ。
なんかどっか行ってるとか言ってたっけかな?
あそこに座ってんのがそうかな??
しっかし・・・こうも簡単に「いっちまう」とはなー。
交通事故だっけ?
なんかアイツらしくねーなぁ・・・。
それともアイツらしいのかなぁ・・・。
でもなにも夏休み中に死ななくったっていいのに・・・。
貴重な休みがあ〜・・・
ところで、あんただれなんだ?大山の事なんか聞いて
・・・もしかして・・・あんた「刑事」さん??!!
なに、まさか大山って殺されたとか?
ヒキニゲ??ねぇねぇおしえてよ!!ねーってばいーじゃんか」
陽と同じクラスの少年。
名前不明。
陽のお通夜にて
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8月18日 「いえ、私は別に彼と親しいというわけじゃないです。
生徒会役員は全員出席ですんで。彼のこともよくは知りませんし。
・・・で、あの、どちら様ですか?そんな事訊いて
・・・・・・・・はあ。新聞記者さん?
何で彼のことなんて・・・。・・・・・・・・言えないって!!?
それに彼のプライベートなこと、知らない人なんかに言わない方が
言いと思いますし。
ええ、まあ噂程度なら知ってますけどお。
だって彼「変わってる」から
ほら、不良って、つるんだりとかするじゃないですか。
でも彼ってそういうところがないっていうか
「俺に近づくんじゃねえ」オーラ?っていうのが出てたんですよ
ね。なんか中学の時から問題児だったらしいし。
ああ、そうみたいです。中学まともに行ってなかったみたいです。
噂ですけど。
そういえば、ヒドイですよねえ。
彼のご両親、いくら忙しいからってお葬式にも来ないなんて。
海外にいるんですよねえ?
彼もうかばれませんよね・・・・・・。
彼、淋しかったんじゃないかしら?
暴力に走る人って何かしら問題あるらしいし。
あ、ごめんなさい。もう行かないと。それじゃあ・・・。」
陽と同学年の少女
生徒会役員らしい
陽の葬式にて
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同日 「大山ですか・・・。ええ、そりゃあ散々手を焼かされましたよ。
役職上仕方のないことです。
・・・でもねえ、彼は、今時には珍しいやつでしたよ。
「ワル」ってほどの「ワル」でもなかったですし。
そこらの不良とはわけがちがいまいしたねえ。
実際指導を受けたのは暴力だけでした。タバコとか酒とか万引きと
か、そういうのは噂もきいたことないですよ。
それに・・・暴力を肯定するのはよくないんですが、
彼は私欲のためには暴力を振るったりとかはしてないように見え
ました。
「正義の拳」ってかんじですか。
身を護るための、いわゆる防衛本能となってたんでしょうね。
いやいや。彼は皆の思ってるような乱暴な性格ではなったです。
思慮深い、頭のいい子・・・でしたよ、
人知れず悩むような。弱いところを必死で隠して、自分の力だけで
生きようとする。
彼の環境がそうさせたんでしょうねえ。」
男性教諭
生活指導担当
陽の葬式にて
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日本の夏は、じめじめとしていて嫌いだ。
「息子」はずいぶんと小さくなって、白い箱におさまっていた。
さいごに会ったのはいつだったろう?
たしか、分数の足し算をならう頃だったろうか?
母さんに預けていかなくてはならなかった。
連れて行くには、少し大きくなりすぎていた。
ふふ・・・まさか自分の母親だけでなく、息子の死に目にも会えなかったなんて。
母さんが死んだ時、あたしの姉さんのとこに行けって言われたらしいけど、
家からはなれなかったって。強情だったんだなあ、あたしに似て。
あたし、なーんにもあんたのこと知らなかったんだね。
今でもあんたのこと思い出そうとすると、「さんすうのしゅくだいおしえて」
ってせがむとこしかおもいだせないや。
でも、実の母親よりか他人の方があんたのこと知ってるなんて、
だめな母親だねえ。
葬式にも出れなくって、知り合いに調べてもらった
(刑事でもなく、新聞記者でもない、ただの一般人。)
まさか、自分の息子がどんな奴かも知らないなんて、いやでしょ。
あー、なんで電話の一本もいれてやらなかったんだろ?
忙しいのは事実だったけど、やろうと思えば出来たんじゃないかなあ?
ごめんね。陽。お金をあげることしかあたしにはできなかった。
あんたの父親もどうしようもない父親「だった」けど、
あたしも十二分にだめな母親だねえ。
写真たてに入ってるあんたは、なんだかあたしのことを睨んでる気がした。仏頂面だねえ。
昔はあんなに素直だったのに。
うー・・・ごめん。
小さな嗚咽がもれた。
蝉の鳴き声が急に止んだ
秋はもう近い。
でも彼には秋は来ない
とまった夏。
永遠の。
大山 太陽。
交通事故により死亡
享年 17。
涼しい風が、すすり泣く母の元に吹いてきた。
終
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