間奏
「「はい、それが私の存在理由ですから」」 信じられない。そんなことは物理的に不可能ではないか。 この石がしゃべって浮いているのだって、どこかの科学技術の産物で・・・・・・ しかしこの際どうでもいいことだ。 「私の願い、それは一つしかありません」 「「さて、なんでしょうか」」 「ウェイメ様の元に返してください。私の主人はウェイメ様だけです!」
「何故?!だってあなたは何でも」 「「ウェイメ氏は既にお亡くなりになっています」」
「何を言うんですか?!そんなことはありえません。そんな」 「「私がここで嘘をついても意味がないでしょう」」 そんな。
せっかく望みが叶うと思ったのに。
それすら、もう叶う事はないとは・・・・・・・・・
「「・・・・・・・・・」」 「私を殺してください」 「「・・・・・・・・・」」 「もう辛いのです。 あの人でない人間に従属するのも 誰かを殺すのも」 だから 「私を殺してください」 「「・・・・・・・・・・・良いでしょう」」 けれど、と少し小さな声で石は言う。 「「本当に良いのですか。今は辛い思い出でも、いつかは輝かしいものに変わるかもしれないのですよ? 貴女が死んでしまってはその思い出を思い出すこともできなくなります。 辛い事がないかわりに」」 「私は機械人形です。人にはなれないんです。だから、私はもう・・・・・・いいんです。楽にしてください」 そう言っている時でもウェイメの事は愛しかった。 けれど、例え彼が生きていたとしてもこの世界では結ばれる事はあるまい。 結ばれると信じたい。 「「わかりました」」 重々しく言い、最後に 「「一つだけ聞かせてください」」 「?」 「「あなたの、お名前は?」」 「・・・・・・・・・宿禰です」 「「宿禰さん。いいお名前だ。覚えておきましょう」」 そう言い終わると淡い光がその部屋いっぱいに浸透していった・・・・・・ 「これは私の推測でしかありませんが、あなたは願いを叶えてくれたのですよね」 「「・・・・・・・」」 カフェのテーブル。その隣でお茶を飲む人や通りへ向かう人達は談笑し、幸せそうだった。 「私はあの時死んだ。全てのバグは取り去られ、「こころ」というものがなくなった」 何も感じず、何も想わず、ただ存在する。 だから私はあの時死んだ。
「本当にひねくれた考えですね」 「「それを貴女が望んだからにすぎません」」
************************************* そして私は本当のVAL−beに戻り、主を守り続け、敵を殺し尽くしていった。 石に会う以前の記憶は情報に過ぎず、ウェイメの画像を見ても何の感慨もなくなっていった。 それに対して悲しいと感じる事もない。楽になったと想う心はないのだ。
いつも通り、出かけるエコロウ氏と共に馬車に乗り込む。馬車に揺られ、ぼんやりと窓の外を眺めていた。 丁度街の中心から少し離れた辺りに差し掛かった時、車が大きく傾く。 「!」 車は完全に横になり、馬が大きな声で鳴き声をあげる。こちらに転がってきたエコロウを受け止め、 いつもの襲撃か、と勢い良く外に飛び出す。 本来あるべき位置とは九十度角度が違うドアの上に上がると、銃身が長い拳銃を持った男達が次々に発砲する。 いつもどおりに倒せばいい。 光景はいつもと代わり映えのしないものだった。 しかし、『あるもの』が目に飛び込んで、本当にわずかに、瞬間的にひるんでしまった。 その隙をつかれ、見事に銃弾が体を突き抜けていく―― とても不思議な気持ちだった。頭の中を警報音が鳴り響いているけれど、なんとも言えない気持ちで胸がいっぱいになっていた。
男達はそんなものに見向きもしないで馬車めがけて走りぬけていく。 けれど私と同じ型番の、同じ顔をした私が私を静かに見下ろす。 すぐに立ち去って行く。
私は、あんなにも冷たい目をしていたのだろうか?人を殺す事になんの感情も持たない、ガラス球の瞳。 それを見て、「悲しく」なってしまった。 本当に宿禰は消えてしまったのだと。 宿禰は死んでしまったのだと。 だからいっそもう、このまま壊れてしまえばいい。 エコロウの悲鳴も聞えた事だ。 このまま。 消えて。
赤い花弁だ。そして、良い匂いで、どこか懐かしい
天蓋の付いた真っ白なベッドに横たわり、大きな窓から白い太陽の光が射し込んで来ている。 気付くと故障は全くと言っていい程見事に綺麗になっていた。 やはりここは天国だ。もし天国だとしたらウェイメに会えないだろうか。 とりあえずそんな事を考えるだけで、自分から行動する気にはなれなかった。 天国にせよ地獄にせよ誰かしら様子を見に来てくれるだろう。 今は動きたくないのだ・・・・・・ 「あぁ、気が付いた?」 男の子とも女の子ともとれる、実に中性的な容姿の子だった。 「ここは」 「私の家だよ」 本当は父様の家だけどね、と加えてくれた。 本当に私は馬鹿みたいだ。 悲しんだり、苦しんだりするのが嫌で、あの石にそれを殺してもらったと言うのに 今ではそれが戻ってきた事が「嬉しかった」。 けれど 「どうして助けたの?」 今はそれが嬉しくても、この先生きていく上では絶対に苦しむ要素としてしか機能しないだろう。 「助けてくれない方が、良かったのに」 「あなたがどう思おうと勝手だけど、それはある種運命だ」 「?」 「私が偶然あそこを通りかかった。あなたがそこに倒れていた。まだ助かる見込みがあった。だから助けた」 あまりにも大人びて淡々としたしゃべり口。 それはどこかウェイメに似ていた気もするし、でもそれはただそう思い込みたかっただけだったかもしれない。 「運が悪かったね。残念」 子供っぽく笑う。 「・・・・・・・・はい」 「そう」
と、はにかむように言ったのだ。
「あぁ、そういえば君の名前。なんていうの?前登録してた記録が消えてるんだけど」 「・・・・・・」 私の名前。 それは 「すくねです」 それこそが私の名前。愛する人に付けてもらった 「つくね?ってあの東国の鶏肉料理だよね。 「いえ、あの・・・・・・・・・」 そしてキーボードの音を立て、TSUKUNEと入力された。 「これからよろしく、つくね」 「はい」 ************************************* 「それで良かったんです。もしテン様が宿禰と入れていたら、私は 宿禰はもうあの時に死んでしまったんです」 しばらく黙っていた石は「「そうですか」」とだけ感想を述べた。 「「宿禰さん。いや、つくねさん あなたはそれで幸せですか?」」 「はい。それだけは言えます。 感情も、戻ったと言ってもあのころほどではないですし今はテン様をお守りする為に人を殺す事も厭いません。 けれど 否定したくないんです。 私は幸せでした。そして今も幸せです」 かつて望んだ幸せが今の幸せではなくても かつての幸せがもどってこなくても 私は。 買い物を済ませたテンの隣にハドムがいることを確認して、石は必死に笑いをこらえていた。 それを不思議そうに見て、それからいつもと変わらぬ様子のつくねの方に視線を戻した。 「大丈夫だった?」 「はい。ご迷惑をおかけして申し訳ございません」 「いいんだよ、そんなのは」 行こうか、と言って荷物を片手に歩き始めた。 テン様、とつくねが呼び、それに気付き、テンが振り向くと 「最後に私の我が儘を聞いてはいただけませんでしょうか」 と言った。 「・・・・・いいけど、何だい?」 「遠回りをしていきたいのです」
未だにどうしてつくねがそんな事を言い出したのか全くわからないテンだったが、断る意味も見当たらないので (ハドムは先に行って馬車の準備をしてくるという) そしてつくねと少しだけ距離をとって、石に尋ねる。 「ねぇ、なんだかつくねの様子がおかしいけど、何を話し合っていたんだい?」 「「愛についてですよ」」 「は?」 「「うららかな陽射しの中、カフェで二人きり、エスプレッソを片手に愛を語り合っていたのです」」 「エスプレッソなんて二人とも飲めないんじゃないの?」「「黙りなさい」」 すると、つくねが足を止める。 「つくね・・・・・・・・?」 少し上を見上げるつくねは、少しだけ悲しそうな表情をしていた。 つくねの視線の先にあるのは古びた屋敷。 ぼろぼろに朽ちて庭も荒れ放題。 まるでお化け屋敷のよう、と例えればしっくりくるだろう。 まさか幽霊がレーダーに反応した。なんていうことでは・・・・・・・ 「つくね?」 「はい」 「どうかしたのかい?」 「いいえ、なんでもありません」
「はい」
だけれども テラスから見たバラと、あなたの笑顔は決して忘れません。 さようなら。 ウェイメ様。
|
あー疲れた。
あー疲れた。疲れた。
なんかダルダルな小説になりましたね。
なんか、こう・・・・・もうちょっと情緒が欲しいです。
というか次のお話で一応最終話ということになりますが。
また思いつくお話もあるかもしれないんで、更新する事もあるかもしれません。
あーでもこのキャラクタが好きじゃないんで(パクリっぽいんで/自爆)書かないかも。
あー疲れた