砂時計が沈黙した日
生存者 いきるもの達の話
1.しょうねん
「ノスタルジー」などというものは、所詮故郷のある者達の自己陶酔でしかないのだろう。 自分を不幸だと思い込んで幸せになっているだけだ。 他人を憎む事と言うのは案外簡単な事なのである。 全てを拒絶すればいい。 自分の心の赴くままに―――― 彼女は、天国を目指す。 争いの無い 天国。 そんな場所が本当にあるのだろうか。 それに、この世界にそんな穢れの無い場所など無いと言うことは しかし、それは一人の少年によって唐突に現実味を見出すことになった。 「天国の場所を知っている」 白亜がこの2年間、共に生き抜いた「相棒」を求めた少年はそう言った。 「おいこら、ボサっとしてんじゃねえ」 苦い物を噛み潰したような顔をし、じろりと目線で返事をすると そこにいるのはこぎれいな格好をしている少年。 選定と運命を司る神、選定者「レドノ」。 どう逆さに見ても10歳前後にしか見えないのではあるが、内に秘めたその大きな力は 「神」とは 一体どういう存在なのだろう。 前はなんとなくあやふやな存在ぐらいにしか考えていなかったし、 逆に「神様」を信じているというと小馬鹿にされるきらいがある。 ゆえに曖昧だけれども困った時には調子よく頼み事をするような物でしかなかった。 そういえば「流水玉」といったか。彼が私からあの剣を奪おうとした時に「武器」として放ったあれは。 ピンポン球サイズの、青い透明な玉を粉々にして、それを再構築し、 (作者のつぶやき:本編とは関係無し:錬金術みたいなもんやね。鋼のれんきんjy――(ヤメロ) 正直それがどういう構造でどうしてそんな風になるのかはよくわからず終いだったが。 そんな風にのろのろと天国を目指し、 レドノと白亜が共に天国を目指してから3週間が経った。 「・・・・・・・・・・・・煙」 「それがどうかしたのかよ?」 傾斜が緩やかな丘に差し掛かると、白亜が声を潜めながらつぶやいた。 剣に巻いていた布を取り去り、その名とはまったく正反対な銀の刃が鈍く光らせる。 「人がいるな」 「悪いけれども、もう食料が無いんだ」 自嘲的な空気を含んだ言葉をぽつりと吐くとわずかにレドノの右頬が引きつるり急に血相を変えた。 嫌悪感を含んだ眼差しなど気持ちのよい物ではなかったが、 もう一つ、一番レドノが神だと思わされるのは「食物を必要としない」ことだ。 「無抵抗の人間を襲って、自分の中に取り込むのか?」 髪をかき上げ、体力を消耗しないように気を付けながらさっと走り抜けた。 ついていけない、 といったように、あくまでマイペースにレドノは白亜を追った。
(こんな人間もいたんだなぁ・・・) しかし人の気配がない・・・まさかもうみんなジャーキーになってしまったのだろうか? 風が流れると、人の気配を感じた。 (白亜・・・?それだけじゃないな) 複数の人間の気配。血のにおいは―――しない 「あぁ、お前か」 「・・・なんなんだよ、これ」 見て見れば大勢の(とは言っても20人あまり)老人やら中年やらが白亜にひれ伏しているではないか。 「なに?命乞い?ジャーキーにはしないでくれって?」 皮肉交じりの笑みはその人々を見下していた。 神である彼に言われるのはきっと不服であろうが、彼女も自分と同じく、年齢を感じさせない。 その集落の人間の言うことをまとめればこんな具合である。 ここは生き残った人間達が集まって、農作物を作ったりして細々と生きている場所なのだと言う。 と。 「で、なんで盗賊退治なんてものに行くんだよ?」 ところどころが崩れた神社の長い階段。 「お化け屋敷みたいね」 「こっちの話」 人の気配は確かにある。確実に。 しかし様子を伺っているのか決して姿を現そうとはしない。こちらから乗り込んで行くというのも しかし、このまま向こうがくるのをただその場に突っ立っているだけというのは 「ひゃぁぁあああぁ」 「?!」 社の奥から子供の悲鳴が聞こえた。 子供と言うのはこの時代生き残ることが大変な事で、 「た、助けてください!!!!」 出てきたのはやはり子供で、レドノよりも幼い小学校低学年ぐらいの少年だ。 そんなことを白亜が考えている間に、数人の人間達が駆けつけてきた。 「てめぇら、よくもわしらの食い物を盗みやがりよって!!その意味わかっとんのかい」 手間が省けた。 「まったく、どこでも同じような事言うのね」 「あ゛?何を言っとんねん」 「大体それは村の人から盗ったものでしょ。良く言うわ」 「じゃかしいんじゃ。餓鬼だろうがわいらは容赦せえへんでっ?!」 背中にかけてあった鞘から細身の日本刀を抜く。鍔のないそれはドスと呼ばれていたものだ。 後ろに居た少年に目配せをして「逃げなさい」とだけ言い残し、 向かってきた人間たちを迎える。 |