ここはネズミの学校です。灰色をしたずんぐりネズミ達がわらわらと、大して役に立つでもない世の中の事について学んで居ます。
 そんな学校の九月の一日。転入生が来ました。

「見た見た?」 「見た見た」 「転入生」
「ぼくらと違う」 「すごいよ」 「変なの」

 転入生ネズミは、おさとうのようにまっしろな毛をしていて、瞳はさくらんぼのようにつややかな赤色をしたアルビノの白ネズミでした。
 みんなは自分たちとまるで違うその姿に興味津々で近づいて行きました。

「すごい。まっしろだ!」 「ショートケーキみたいね」 「きれい」
「どこから来たの?」 「友達になろうよ」 「ぼくらと遊ばない?」

 白ネズミはとたんにクラスの中心に据え置かれ、まるで神様の化身のような扱いを受けたので、とってもくすぐったいような気分になりました。
 けれど決して気分の悪いもんじゃありません。

「すごいでしょ?僕ってこんなに白いんだ。この瞳も見てごらんよ。燃え盛るルビィのようにまっかっかじゃないか」
「白い白い」 「赤い赤い」

「さぁみんな、僕と一緒に遊ぼうよ!」
「あそぼう、あそぼう」

 そう言うと、近くを通ったモルモットが言いました。
「君の人気なんていまのうちだけだよ」
 なんと嫌味なモルモットでしょう。ずんぐりとしてずいぶんと間抜けな顔をしています。
 毛並みは汚らしく、妙な色をしています。
「君は僕の人気をひがんでいるんだ。見苦しいね」
 そう言ってさっさとみんなの元へ走って行きました。
「いまのうちだけさ」
 モルモットは呟きます。
 そうして白ネズミはとても楽しい毎日を過ごしました。



 ところがその数週間後、少し遅れてまた新しい転入生が来ました。
「見た見た?」 「見た見た」 「転入生」
「ぼくらと違う」 「すごいよ」 「変なの」

 その転入生ネズミは焼きたてのトーストみたいな色の毛をした小さくて愛らしい顔をしたハムスターでした。

 みんなは自分たちとまるで違うその姿に興味津々で近づいて行きました。

「すごい、ちいさい!」 「かわいい」 「丸っこい」
「どこから来たの?」 「友達になろう」 「おれたちと遊ばない?」

 白ネズミは急に、膝の力が抜けるような感覚を覚えました。
 だって、今まで白ネズミをかこっていたネズミたちはみんなハムスターの方へ行ってしまったからです。
 慌てて白ネズミは言いました。

「ねぇ、みんな見てよ、ほら!僕ってこんなに白いでしょ?
 きれいな目でしょ?すごいでしょ?」
 するとネズミはこういいました。
「何を言ってんだい。君の白さなんてどうだっていいのさ。
 それに比べて見てごらんよ。このハムスター君の愛らしいこと」
 そのネズミはそこで言葉を止めましたが、その瞳はその続きを「君に飽きるのも無理はない」と言っているように見えました。

 そして白ネズミはひとりぽっちになりました。

 遠くでハムスターは高らかに言いました。
「すごいでしょ?ボクってこんなに小さいんだ。この顔も見てごらんよ。母性本能をくすぐるだろう?」
「かわいいかわいい」 「くすぐるくすぐる」
 そこでようやくわかったのです。
「ハムスター君」
「なんだい?白ネズミ君」
「君の人気なんていまのうちだけだよ」
 モルモットは一体どのように囃し立てられたのでしょう。
 どれだけあのぺしゃんこな鼻を高くしていたのでしょう。
「君はボクの人気をひがんでいるんだ。いやらしいね」
 そう言ってみんなの元へ走って行きました。
「いまのうちだけさ」
 白ネズミは呟きます。

 そうして白ネズミは早くハムスターの人気が失せる事を日々心待ちにしていましたとさ。



「九月の寓話」終。





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 ありがちすぎたかな。