「線香、忘れちゃったな」

「……」

「あーでも仏教徒じゃないから線香はやらなくていいのか」

「……」

「なんか、あの人の好きなもの持ってくりゃよかったな」

「……」



「花、あげなよ」

「……」

「せっかく買ってきたんだからさ」

「……」


「きっと喜ぶよ。あの人花とか好きだったじゃん」
「ねぇ」

 それは吐息のような声だった。
「この花をあげたら、この花はどうなっちゃうんだろう」
「……枯れる、だろうなあ」

「枯れて、風に乗って、消えて無くなっちゃうんだ。私がここに来た事も無かったことになっちゃうんだ」


「そしたらまた来ればいいよ。今度は何かお土産持ってこよう」

「うん」

 そっと、壊れやすい物を扱うように花束を墓前においた。


「せめて盛花を」終。





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盛花という言葉が辞書だと「せいか」、ではなく「もりばな」。
意味合いは花の飾り方。

しかしそれではなんとなく話が作れそうに無かったので「せいか」という言葉からなんとなく「献花」を連想したため
そちらのイメージで作りました。


描写がとことん無いのは墓前という厳粛な空間を表しているわけで


決して物語が浮かばなかったからとかそういうわけではなく。


そういうわけでは……。