第一話「愛する人をよみがえらせて欲しい」




にぎやかな街だった。
陰と陽、静と動でいうなれば「陰」である「動」という、摂理のねじれた心地よい雑音の街。

その中でも特に動の部位が顕著に表れている繁華街。

顔を赤らめている中年の男や、あからさまに不機嫌そうな若者
きつい香水の匂いを着ながら金持ちに擦り寄る女やらが溢れている。

そんな中を周りよりも一つ、ないしは二つ分くらい小さい子供と衣装を黒で統一した細身の女が歩いていた。

随分と周囲から浮いている二人だったが、
それはなんとなくどこに居ても浮いていそうな二人だった。

非常に奇妙で大変に歪な。


「あ、『つくね』。エネルギーの補給は大丈夫かい?」
「問題はありません」
「私はお腹が減ったからごはんにしようかな」

「申し訳ございません。残念ながらデータにこの近辺の飲食店情報はありません」

一本調子で要点だけを伝える様に苦笑しながら

「仕方ないよ、それはつくねの専門外だもの」
「申し訳ございません」

「「お嬢さんはまったく悪くはありません。おなかが空く『テン』が限りなく世界で一番悪いのです」」

「仕方ないだろう。私は人間なんだ」

理不尽な理由で『テン』を責める声は、黒い衣装の『つくね』の声ではなさそうだった。
二人以外に並んで歩いている人間は居ないし、第三の声は透明人間のように宙から聞こえているのだった。

「とりあえずどこか値段が手ごろなお店に入ろう。情報も聞きたいしね」

「「・・・・・・・・・・とは言っても、この辺りには酒場しかないのではないのですかな?」」

「酒場って結構情報が手に入りやすいと聞いた事があるんだけど」

「「この国の法律じゃお酒が飲めるのは18歳からでしょう」」

「飲まなきゃいいんでしょ」

鳴る腹を抱え、足早に人並みに飲み込まれて行った。






値段・品質・雰囲気。

恐らく店を選ぶ上で重要な三要素だろう。

この近辺で飲食をするとするのならば、重要だと思われるのが値段でも品質でもなく
雰囲気だ。

おしゃれな街の中にあるレストランを探しているのならどこも大した差はないし、
あってもどうってことのない違いでしかないだろう。

その場合は値段と品質を優先するべきだと思う。

しかし、ここは繁華街。

そんな平和な空間とは別世界という心構えを持っているべきだ。

『類は友を呼ぶ』と言うように、その店によって大体は同じような人間が集まってくるものだ。
特に注意すべきは、そこが「悪の巣窟」であるか、否か

それを余所者は見極める事が重要なのである。

その街を治めるつもりならばその場所に乗り込んで全員ぶちのめし、
従えさせるのも有効だが、長居するつもりの無い上、
実力も度胸もないくせにモラルだけは一丁前に持っているテンはネズミのように店を嗅ぎ回っているのだった。

(もっとも、食べ物の匂いをかいでいたのかもしれないが)




外の喧騒が嘘のようにひっそりとした酒場。

一つのグループがテン達と入れ違いで出ていったので、客はカウンターに一人を残すだけだった。


テンもカウンター席にちょこんと座り、マスターと交渉した末、特製オムライスを作ってくれる事になった。

飴色に輝くデミグラスソースのかかったオムライスをスプーンでそっとすくって口に運ぶ。

一度にんまりと微笑んで、黙々と食事を続けた。

テンの隣につくねは座るが、何を注文するでもなく出された水さえも手に付けないで鎮座していた。
そのかわり、と言うように透明人間んのような存在の声が時々

「「テン、ソースがこぼれましたよ。・・・・・・なめちゃだめですってば。汚いでしょう。
マスター。ティッシュか、ふきんをいただけますか?」」

といさめているのだ。

その声に声を掛けられ、思わずつくねの方を見るが、彼女が喋った気配は無い。
苦笑いをしながらよくしぼったふきんをテンに渡す。

「しかし、不思議だなあ」

オムライスを半分くらい食べ終わった時にマスターが口を出してきた。

「君達は一体こんなところに何をしに来たんだい」

相変わらずがっつくテン、つくねも黙っている。

見かねた声が「「ほら、呼ばれてるんですよ」」と呼びかけた。

「え、あい。えと、『テン』と申します。こっちはつくね」

「「答えになってない・・・・・・・」」という嘆きに被るようにつくねがゆっくりと会釈する。




「「テン、私達の目的の事を尋ねていらっしゃるんですよ」」
もうしわけありませんね、テンは随分と意地が汚いので、と最後に付け加えた。
マスターは首を回して見慣れた店内を見渡す。
もう一人酒をあおっている客がいるが、「彼」が喋っているわけではなさそうだし。
とりあえず顔を引きつらせて精一杯に笑って見せた。

本当に透明人間が近くにいるのではないか、という薄ら寒い妄想を冷や汗と共に流して。



「えっと・・・・・・・・・『願いが叶う石』というのをご存知ですか? 」

「ん? あ、いや。しらないな。なんなんだい、それは」

「そのまんまの意味、だそうです」

その石を手に入れる事が出来れば、一つだけ願いを叶えてくれる、という御伽噺のような事実。

テンはポケットをあさると、胡桃をふた周りほど大きくしたサイズの石を取り出した。

黒く鈍く光り、表面はつややかだが、どこにでも転がっていそうな、ありふれた石だ。
「・・・・・・・・・・・・あんた、まさかそれ」

「ええ。

私が継承したんです」

そういった瞬間、ガラスが割れる音に空気が割れた。
その割れ目に冷たい「何か」と熱い「何か」が同時に流れ込む。
ガラスが割れた音は、もう一人の客が座っていた方から聴こえた。

「君は・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれを、持っているんだな? 」

「・・・・・・・・・あれ、とは?」

その狂気色に血走った眼に警戒するようにテンは石をさっとポケットに戻す。

今まで沈黙を守り続けていた(というよりも電源が切られていたような)つくねも立ち上がり、
男とテンの間に割り込んだ。

「ご用件はなんなのでしょうか?テン様は現在お食事中でいらっしゃいます。
それを阻害するものに対する『迎撃レベル』は8に設定されているので

これ以上の接近の際にはこちらも『それなり』の対処を取らせていただきます」

落ち着いた声色だったがキリキリという緊迫感を押し付けてくるものだった。
その場を崩すように情け無い声で
「つくね、頼むから私をそんな意地汚い人間のように言わないでくれないか? 」

と言うと、声が尋ねた。

「「ではどのくらいに設定されているのですか?」」

「6」

閑話休題。

「あれとは何を指して仰っているのですか?」

「決まってんだろ!あの石だ!

あ  の  ペ  テ  ン  の  石  だ  !  」

「つくね!退け!」

「はい」

命令に従うようにテンの後ろにさがった。


テンは一歩男に近付き、「今、ペテンの石、と仰いましたね。あなたは・・・・・この石に関わったのですか?」

再びポケットに手を入れ、石を取り出そうとする。

「「私は覚えていますよ。『愛する人をよみがえらせて欲しい』でしたよね。ソールさん」」

「そのキザったらしい喋り方。忘れた事も無いよ」
忌々しいように喋る男に見せるように、テンはポケットから石を

・・・・・・・・いや、「声の主」を取り出した。

その姿を確認して、顔を真っ赤にしながらそれを奪おうと足を踏み出すが、首筋に冷たいものを感じ、
その場にとどまった。いや、留まらざるを得なかった。

「警告はいたしましたよね」

テンの後ろにさがっていたはずのつくねが、いつの間にやら男のすぐ後ろまで来て
鋭利な爪を首筋にあてがっていた。

「つくね、殺すのはダメだ。放してやってくれ」

「はい」

爪をどけると、男はがくんと膝を折った。

悔しそうに前髪をかきむしり、顔をこれ以上できないほどにゆがめた。

「・・・・・・ペテンの石、というのはどういう意味ですか?」

男の目線に合わせるようにしゃがみこむ。

「私は『彼』によって願いが叶った人の所を訪ねているのです。

よろしければ、詳しく聞かせていただけませんか?」

しばらく俯いたままだったが、テンを歯を食いしばりながら睨みつけ

「語るも忌々しい笑い話さ」



語り始めた。



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おやまあ、気付かなかった方が良かったものを。

そうです。

こっそり裏話。





はい、そこのあなた、
キノの旅っぽいは禁句ですよ?

(自爆)

これでも精一杯キノの旅にならないように頑張ったんですってば。

たとえば主人公の一人称とか、本来喋るべき存在で無いやつの口調とか、旅する人数とか、
つくねさんに銃を持たせなかったりとか、

数えればキリがないくらい。

でもテンのイメージは明らかにキノだし、つくねさんはパンタさんだし
(注:パンタさんとは N−GRAVITY というサイト内にある作品のキャラパンタグリュエルさんの事でゲス。
知らない人はスルーの方向で)

短編連作なあたりとか時間の流れが話によってばらばらだったりとかも明らかにキノの旅だし〜〜


パクリ

 

まぁいいじゃないですか。

 

何気につづく(笑)