生存者 いきるもの達の話

2.みにくいせかい

剣を大きく振るい、男の胸部に切れ目を入れる。そこを思い切り蹴り飛ばし
後ろに居た男にぶつけさせ、倒れこんだところへ、剣の握りを変えて
二人一気に剣で串刺しにした。

えぐりこみ、剣が肉を潰し骨を砕いていく。

断末魔が絶えたのを確認したら、剣を抜く。
血しぶきすらも気にせずにそのまま他の人間の元へ向かう。

横目で後何人かをざっとかぞえてみると、5人。

しかしレドノが一人倒したので後4人――。

らぁぁぁぁぁっ

剣と剣が甲高い音を立ててぶつかる。

ドスで剣を受け止められ、双方動けない状態になった。
こう着状態がしばし続き、一度つきはなしてから、もう一度剣を叩き込んだ。

ドスが根元からぽきりと折れ、くるりと回転しながら地に刺さる。
そしてそれはすぐ後に赤黒く染まった。

「あっけないね。もう終わりだ」

8人分の死体が血の沼に沈んでいる様子は、白亜にとって見慣れた光景であったが
あの少年の方は顔面蒼白で今にも倒れそうなところだった。

「大丈夫?だから逃げろって言ったのに」
腰を抜かせて座り込んでいたので手を差し伸べようかとも思ったが
どうやら彼女自身も彼にとっては恐怖の対象であったようだ。

女の、甲高い笑い声がした。








「あんた、強いんやねぇ。そないに華奢な体しとるのに」

派手な紅い着物を羽織り、長い髪の毛を髷のように結って、
血のようなべにをさした女が柱に寄りかかってこちらを覗いていた。

「囚われの身―――ってわけではなさそうですね」

「そうよ。うちは『聡香(さとか)』。あいつらの頭(かしら)なんよ――」

「そうですか。でもあんまり彼らに愛着は無いようですね」

頬に付着した返り血をぬぐい、少年をかばうように立った。

「あたりまえやん・・・・あんま役に立たへんかったしぃ」

「彼らはあなたに尽くしていたみたいじゃないですか。故人の事を悪く言うのは良くないですよ」

彼女の見た目がきれいなままなのは
きっとここに転がっている男達に尽くされてきたからなのだろう

「でも、結局うちを守れへんのやったらあいつらの存在価値なんてないんと違う?」
女はまた癪に障るような声で大層おかしいように笑い転げた。

「まぁ、ええわ。なぁ嬢ちゃん?」

社から降り、ゆっくりと近付いてきた。長い着物は地面を擦り、だらしなく影を撫でた。

「あんた、なんやどえろう強そうやないの。うちの男衆のほとんどを一人でやっつけてまうなんて」

「それ以上近付かないでください」

剣を地面と水平に突き付け牽制するが、それに怯むはずもなく

「うちの右腕にならん?あんたとうちやったらこの国を治めるんも夢やないで?」

「興味ありません」

「ふふっ・・・おもろい子ぉやわぁ・・・・・」
眼球がぴくりと左に動いてレドノを確認すると、まるで子供が玩具を見つけたような顔で
「あんたでもええねんよ?なんや知らん、キッカイな技つかう子もおもろそうやさかいに」

「死ねよ」

「うっふふふ。かわええなぁ。あと10年経ったらまた来ぃな。そしたらうちがええ事してあげるわ」
「失せろ」

「レドノ、もういい」

くだらない会話に愛想が尽きた。もう早く終わりにしてしまいたい。

「下の集落なら必要最低限の暮らしは補償されます。どうですか?
今まで捕らわれていたということにしておいて集落で暮らすというのは」

懐から色褪せた扇子を取り出し、顔の半分を覆った。目じりをけだるそうに下げ、
迷ってる風に

「そうやねぇ。それもええかもしれへん」

「それでしたらこの子が盗んだ食べ物のことも許してくれますね」

「せやけどね、お嬢ちゃん」

扇子を閉じ、懐に戻す。
そして

「うち、あの村嫌いやねん。生温ぅて、
自分達はまともに生きよなんて甘っちょろい事考えよって」

「なんでこんな世界でまともに生きられるん?こんな醜い世界で・・・」

一瞬だけ、彼女の素顔が揺らいだ。仮面が外れた所を見た。

「強いものが弱い物からとる。それは自然の摂理やん」

「うちは悪ぅないやん?!」

扇子の代わりに出てきたものは一本の短刀だった。恐ろしいスピードで距離を詰め
前に向けられていた白亜の剣をくぐり
逆手に持った刀を下から上へ突き上げるように切りつけてきた

「ぐっ!!?」

危うく首を狙われるところだったが紙一重で逃れた。
「こんな世界で生きていくんはこのくらいのことせなあかんねん。

堪忍な

立て続けに繰り出される攻撃をよける事に精一杯で攻撃する事はできない」

レドノも流水玉の刃を飛ばして応戦しようとするが軽がってよけられてしまう。

(このままじゃ危ないな―――)
とにかく剣が振るえなければどうしようもない。とりあえず間合いを取らなければ!!

なんとか距離を置こうと後ろに跳躍しかけた時

「逃がさん!!」

羽織っていた着物を勢いよく投げつけた。それが白亜を覆い、視界と逃げ道をふさぐ
「っ?!」

白亜の上に馬乗りになって首があるであろう箇所に切っ先を振り下ろす。

が、横から飛来して来た刃がそれを阻み、わずかな隙をついて白亜は砂を掴み、撒く。

「なっ!!?」

思い切り突き飛ばし、聡香の方が今度は倒れた。

短刀はというと主の手から離れ地面に横たわっている。

絶好の機会―――

剣を握り締め、大きく空を切るように振り下ろす。
しかしそれをかわすだけの余裕を与えてしまい
致命傷はおろかかすり傷すらもあてられなかった。

しかし、良く見て見ると―――

「へぇ、あなた、けっこう歳行ってるかと思ったら、私と大して違わないのね」
聡香はあの着物の下にセーラー服を着用していた。
それは彼女にぴったりと似合っていてただ趣味で着ているとは思えず、
確かに彼女のものだった。

「無駄口叩いてる場合じゃねーだろうが!」

すぐに近寄ってきたレドノは水晶を刃の形にして手に握り締めていた。
「あんたの出る幕じゃない。私一人で十分だ」
「要らん意地はってる場合でもない」

「なに?これであんたら形勢逆転したつもり?」

二人の妙なやりとりに動じず、不敵な笑顔をよこす。
刀はしっかりと地面に転がっているというのに自信満々―――それはつまり・・・
「まだまだ、やで?」
セーラー服の胸元に手を入れ、
ゆっくりと首をそらし大道芸人が口から刀を出すように短刀を取り出した。

「変わりはしない」

呼吸を整え

「こちらが攻めるのだからな!!」

廻りこむようにして一気に駆け出した。それに動じもせず聡香も白亜めがけて突っ込んでくる
(なんでやねーんっ ←ツッコミ違いw関西人やしね〜)
↑作者のつぶやきなので本編とは関係ありません。もう気にしないでください・・・

間合いを詰め過ぎてはいけない。けれどこの剣が届く間合いでなければいけない―――

剣をなぎ払いながら、細心の注意を払い微妙な距離を取り続けた。

―――それでいて、確実に致命傷を与えなくてはならない―――

実に難儀な戦闘になってしまった。
それにこの聡香という少女、恐ろしく瞬発力が高く、2年の間に鍛えられてきた白亜でさえも
神経を集中していないとあっという間に切りつけられてしまう。

この少女も、同じ時代を生きたのだ・・・。誰かを殺して自分を護らなければならない
醜い世界を――――――。

彼女だって2年前までは普通の学生として、
殺し合いなどとは無関係な温かい生活を送っていたのだろうに

けれど決して可哀想だとは思わない。

彼女をかわいそうだと哀れむのは容易いことだが、
それは結局自分を哀れんでいるだけでしかない。
嘆くだけなら意味は無い。

「おいこら、俺の事を忘れちゃいないかい?」

唐突に乱入して来たレドノは、聡香めがけて刃を放つ。
リズム良く後ろに跳躍してそれをかわす姿はまるで踊り子のようにしなやかだった。

「あんた何モンなん?!こんな変な大道芸使いおって」
「大道芸じゃない。神技(しんぎ)だ」
「説明しなくていい。どいていろ」

聡香の左腕に剣を突きたてる。
レドノに気を取られていたのか剣がわずかかすり、
先ほどの着物のように紅い鮮血が滲み出た。
小さくくぐもった声を上げ、傷口を押さえるが、その程度の傷では動じないようだ。
隙が出来た。

首を狙って横に大きく剣を振るが、もぐら叩きのもぐらみたいに体を引っ込ませ
そのまま白亜の足元へスライディングさせた。

思いもよらぬ攻撃を受けた白亜はあっけなくバランスを崩したが、剣と片足で体を支え、
地面に突っ伏すことは無かった。

「あんたの攻撃は隙が多いねん。振りが大きくて無駄な動きも多いっ」

そのまま足を白亜の腹部めがけ強く蹴りつけた。
鈍痛に目の前がぐらりと揺れ、意識を飛ばすところだったが、力をおもいきり振り絞って
大きく横に跳ぶ。

着地した時点ではひざを崩すほどに痛みが酷くなってしまったが内臓に異常はなさそうである。
「ちょっとあんた・・・・・・っ」

痛みに耐えながらレドノを必死で睨み付ける。

「なんだよ」
「ボサっとしてないではやく仕留めなさいよ?」

頭を大袈裟にかいて「できねぇんだよ」と。

「は?!」

「あいつは動きが速過ぎて流水刃じゃ当たらない。それに―――」

「それに?」

「玉切れ」

「・・・・っの・・・バカっ」

「うるせぇ」
バツが悪そうに言ったのが聴こえる前にはすでに白亜の思考は回転を始めていた。
早すぎるうごき。
振りの大きい剣
直線攻撃しか出来ない流水刃
玉切れ

玉切れ?

ふと辺りを見渡すと、ところどころに刃が刺さっている。

「ちょっと―――、あの水晶、遠隔操作は出来る?」

「遠隔操作?刃を飛ばすことぐらいなら出来なくは無いが」

「飛ばすと言う事は戻すということも出来るな?」
「あぁ」

痛みが引き、若干ふらつくが戦えるぐらいには回復した。

「なら・・・・・・時間を稼ぐ。全部手元に戻せ。私に当てるなよ!」

言い終わらないうちに白亜は聡香の元へと剣を構えつつ突進していった。

(来る?―――っ)

応戦できるように短刀を構え、彼女を迎え撃とうとするが、
近くに落ちていた刃が動き始めている事に気が付いた

(まずい?!)

――刃を回収しとるんかっ?!――

足元にあった刃を思い切り踏みつけると軽やかな音を立てて粉々に砕けた。
しかし全てを割る事など不可能で、さらに加えるなら

「ぐっ?!」

白亜の攻撃が次々と繰り出される。

素早さはないが、その一撃あたりの攻撃力が高すぎる。

(こいつは・・・やばいんちゃうか・・・?)

けど

「負けてられへんねんっ!!!」

この際、刃の方は無視するしかあるまい。どうせ飛んできたとしても避ければいいのだから。

そう決めた刹那に反撃を開始した。

「何度も言うとるけどなぁ、あんたの動きはっ」

「無駄が多いっ」

ひときわ大きく剣が振り下ろされ、それを避けた瞬間。

かがんだ白亜の後ろに見えたのは

――― 大道芸の餓鬼っ?! ―――

瞳に映し出されたそれを認識した時にはもう遅く、

体中に刃が突き刺されていた。

「無駄がおおい?」

「ふざけんじゃないよ?」

それは死神の声だと思うしかなかった。

居合い切りのごとき速さで剣は横に払われた。

意識は 

 もう

この世

は         

           無かっ

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