生存者 いきるもの達の話
5.かちをもとめて
「白亜!!!」 レドノの声は彼女の耳に届くはずも無く その剣が女神に向けられた。 「刻さん!」 壱太が絶叫すると同時に 「白亜」の悲鳴が何も無い空間の隅々にまで染みて行った。 「愚かな人間」 地面は予想以上に固く、右の腕を強くこすってしまった。痛い。 ( これが、 神の力だというのか? ) さっきのはなんだというのだろう。 まるで磁石が反発するかのようになにか強大な力に跳ね返されてしまった。 「なぜ人間は与えられたチャンスをいつも逃してしまうのですか? 「気に入らないだけよ。あんた達のその全部知ってるみたいな面がね」 重く感じる体をゆっくりと起こし、剣に身を預けていた。 ゆっくりと息を吸い込み 「この剣は、世界を喰らうことが出来るのだな」 「―――えぇ」 「ではなぜこれをまた欲しがる?」 「―――」 「答えろ!」 「答えてやればいいじゃねえか」 レドノが白亜の横を通り、刻の方へと歩いていき、 「こいつは『浄化』に失敗したんだ。 だからもう一度、正式に『浄化』を行う」 「!!」 女神の絶対零度の微笑みはすでに無く、翳ったものが伺えられた。 苦々しいように 「そうです。 本来ならば生き残るものなど何一つ無く消し去る予定だったのです。 しかし私の失敗により、中途半端な『浄化』が行われてしまい、 このような事に―――」 「中途半端な、浄化・・・・?」 「だけどそれはもうお前に関係無いことだろ? どうせいつかは死んで行く運命。 それにお前は他人がどうなろうと知ったことじゃないって思っているんだからな」 「違う」 「他人を解体して自分の糧にするお前がか?違いはしない」 「それは――」 そういうことなのだろう。 あの日から、白亜はもう自分だけが生き残れればいいと感じてきた。 今自分が何に対して憤りを感じているのか それすらも、そんな簡単な事すらも 正直わからなくなっていた。 「お前達だけは生き残れる。それでいいだろう?」 そう。それでいいのだ。この剣を渡して、 それで、 「その剣を、渡すんだ」 壱太は、事の成り行きをただ見つめている。 自分には何もできないと感じ 自分は何一つ知らなかったことを気付く。 けれど、何か不自然さを感じていた。 刻の悲しげな顔が、どうにも「何か」をひっかからせている。 どうしてそんな悲しい顔をするのだろう? 刻は人間を「醜い」と言っていた。 それらを消すことに何一つ迷いなどないはずではないのか? 「「すべては、無に返さねば」」 「「私は」」 「「役目なのだから」」 あの、地震の時に聞こえた声。 あれは確かに、刻の声だった。 なんと言っていたのだろう。 何を、訴えていたのだろう・・・・・・ いつも白亜の身を護ってくれた剣を、前に差し出した。 ――私に、これを持つ意味など無いし―― ( ) 耳の奥で何か声がした。 「それでいいんだ」 レドノがその剣に触れる。 馴染んだ感触が、その手を離れていく――――― 離れていく―――― 「では始めるぞ」 蒼白の表情で刻は剣を受け取る。 その手に触れると、剣が一瞬にして夜の闇のような黒色に染まった。 その闇は剣では収まりきらないのか、湯気のように禍々しい闇を纏っていた。 女神がいた地面の辺りが一瞬にして影が広がり いや、実際にそこに穴があいたようだ。 その下に見えるもの 街。 荒廃している、恐らく白亜が歩いてきた街 いつか、誰かが、住んでいた、街。 (あぁ、ダメだ) 剣を大きく掲げ、 女神が 剣をその中へと落とす――― (世界は、終わるのか?) 「全てはお前次第なのだ」 (でも、私に何が出来ると言う?) 「お前になら、出来る」 (私は奪うことしか出来ない。何も。誰かの為に何かをするような人間では無い) 「世界を喰らう漆黒の聖剣の裏の力を操れたお前ならば」 (じゃ、何もしないのか?) (何もできないから、何もしないのか?) 足は、白い地を蹴っていた。 風のように、その剣へと向かって走っていった。 「!?」 剣はもう穴の中へと入って行ってしまい、その姿が見えなくなってしまっていた。 それでも白亜はその中へ飛び込み、 落ちていった 「白亜さん!?」 「白亜!!!」 落ちていった――――― |