生存者 いきるもの達の話

6.なんじはかぎをもつもの

ガリレオガリレイが実験した通り、

どれだけ質量が違っても、同じスピードで落ちていくわけで。

漫画や映画のように落ちて行くものを追ってもそれにたどり着くことなどはない。

つまり、今自分が落ちてしまっても

それは剣を手に入れる事はできないし

ただ命を落とすだけで終わってしまうのだろう。

それでも手を伸ばし続けている自分は、きっと大馬鹿者なのだろう。

どうして飛び込んだんだっけ?

何もしないまま終わらせたくなかった。

どんな足掻きでしかなくても、

ただ終わらせるなんて言うことはしたくなかった。

( 願え、少女。汝は鍵を持つものなり )












確かに、レドノと戦った時と同じ閃光が走ったのだ。








それをしっかとみたのである。









剣が、彼女の手に収まったのも。














「そんな――――」

「だから言ったんだ・・・・・あいつは『救済者』だ。
剣の力を使える人間――

お前と対なる位置にいる存在―――」

「どう言う事なんですか・・・?これ・・・・」

大きな穴からはまばゆい光が溢れ

その中から出てきたのは

白亜。

「・・・・・・っ」

「―――――」

刀身が銀に輝いたそれを真っすぐに女神の方へと向ける。
その目にはうっすらと涙を溜めていたが、

整然と、凛と、しっかりと女神を見据えていた。

「・・・・どうして?」

そのあまりにも真摯な瞳から逃げるように呟いた。
それでも白亜は女神を見つめた。

女神がどんなに目を背けても、白亜が見つめていることは代わらない。
その視線は世界で一番正しい正義だった。

「お前達に、この世界の行く末など握る権利は無い。
そう思ったから、私はこの剣を掴んだ」

神などは必要ない。

私を助けてくれないのなら神など存在する必要は無い。

先ほどまで黒いオーラを放っていた剣は、
ゆきのように冷たく清らかな光を放っている。

確かな力を感じる。

剣から伝わる力。

神をも殺すことが出来る、聖なる剣―――

「はぁぁぁぁぁっ」

振りかざした剣から青白い閃光が走った。

「ダメだっっ」

強大な爆発が起こり、視界が一瞬だけさえぎられた。

今の声は―――

壱太?



























「思い出したんですよ」

光が周囲に散らばり、視界が開けた。
その中にいたのは、

女神をかばう、壱太の姿―――

『神は普通武器なんかじゃ殺せねぇよ。『世界を喰らう漆黒の聖剣』ぐらいか神技でなきゃな』

死・・・・・・?

ゆっくりと壱太は崩れるように倒れた。

「壱太・・・・・?壱太――――――?!」

女神が抱きかかえると、壱太か淡い光がこぼれ落ちる――。

『神格』が、その体から――――。

「あなたは、優しかったんだ。
迷っていたんだ」

「「全ては無に返さなくてはならない」」

「「それが、私の、存在する意味だから」」

「「それが私の、全てだから」」

「「でも」」

「「彼らの存在する意味を、私が、奪ってしまっても、いいのだろうか」」

「「でも、これが私の役目だから・・・・」」

「「だから」」







「「砂は落ちた」」



「「今、再生の時―――」」













「「全てを、浄化せし時―――」」















「最後の最後まであなたは、な・・・・やんで・・・・・、
だから、失敗したんでしょう?

僕は、聴いていましたよ。あなたの声を」

「壱太、待って、ねぇ、お願いもうしゃべらないで」

必死に押さえても、体中からあふれる『神格』は止まることなく
とめどなく溢れていく。

「でも、消すなんて・・・・だめだよ」

「壱太―――」

「僕、僕ね、まだ――夕陽を、見れて無い。

まだ、見れて無いから、見たい、見たいから、見た――」

求めた手は、静かに地に付いた。

「壱太?い――――」

声も虚しく、壱太は

「・・・・・・・・・・・・・・・」

白亜は、剣を握り締めたまま、やり場の無い
妙な気持ちを抱えていることしか出来なかった。

「これが、私の招いた結果だと言うの――?」

女神の呟きに耳を傾け、それでも目を伏せ、
ただ聞く側に徹した。

「そう・・・・迷うべきではなかったのね――――」

「迷った結果がこれ

あの時迷わず力を開放していれば誰も苦しまずに済んだのに――

この子も、私も、みんな、みんな―――」

「そんなのは今更どうしようもない。

そんな後悔は無意味だ」

「それでも」

「私はあなたを許すことは出来そうも無いわ」

気付いた時にはもう白亜は宙を舞っていた。
悲鳴を上げる暇もなく、唐突に衝撃的に衝撃を受けた。

地に着くと思い、ぐっと背中に力を入れる、

しかしそこにはすでに2発目が待ちわびていたのだ。

「何か」が地面から生え、切りつけてきた。
それは動く茨。

気味悪く舞い続ける、透明な茨。

「ぐぁあっ!!」

「おい、落ち着け!刻っ!!?」

「何もかも、消えてしまえば良かった!なにも、存在しなければ良かった!」

「おねがい―――これ以上、

これ以上私の生きる意味を奪わないで――――」

痛切な女神の声は、もう女神としての荘厳さも偉大さも無く、

弱々しい、大切な物を奪われたものの声だった。










人間は、なぜ生まれたのだろう。

世界を破滅に導く悪魔の子。
それらが何故、この世を支配したのだろう。

他人を蹴落とし、自分勝手に、エゴイスティックに生きてきたというのに。

何故繁栄してきたのだろう。

だから繁栄してきたのだろうか?

神が人間を作ったのではないのなら

人間が生まれた事が奇跡なのだとしたら

人間が生きる権利は―――

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