生存者 いきるもの達の話

7.よぶこえにみちびかれ

「がぁぁぁっ?!あっ・・・」

何度目か解らない悲鳴を上げる。

絶える事の無い攻撃。
絶対的な力
制御というものを考えていない攻撃。

女神はただ無表情に白亜へ攻撃を仕向けていた。

反撃を与える間も与えずに、残酷とも思える容赦ない攻撃を―――

気付けば体は血まみれになっていた。
目の前がだんだんと霞んでいく。

心なしか剣の光も徐々に薄れてきている。

「もうやめろ!!そんな事をしてなんになるんだ?!
こいつに当たったって何にもならないだろう!」

「――――」

「おい!!」

「あなたにはわからない!!

全てを失ってしまった私のことなんて、わからないでしょう?!」

「っ?!」

「『刻』という名前を貰ったわ。

いい響きじゃないけれど、大好きな名前よ?

私の事を、「神」ではなく、対等に扱ってくれたの」

「嬉しかった。とても、嬉しかった――」

恍惚とした表情で、それでも悲しみをふくんだまま
胸に手を当てていた。

「他人といる事って、こんなにすばらしいことだったのね。
一人じゃないなんて、とても楽しいことだった。

人間でも、愚かで無い人だって居るんだって、気付かせてくれた。

人間を信じても良かったんだって、思った」

一筋頬を伝う涙。

「だから、あの子が元いた世界に帰るって言った時には
悲しかったけど

あの子の決めたことだから、させてあげた。

ひとりは辛かったけれど

沢山のものをもらったから。
それでいいと思えた。







なのに、あなたが殺したのよ」

「・・・・っ・・・・」

「あなたが、あの子を殺したのよ!!」

「あいつはお前の為に死んだんだぞ?!」

「違う!」「それが解らないのかよ!」

「違う!!」

レドノは必死に刻の肩を掴んで説得しようとするが、
相手はもう話を聞ける様子では無い。

憎悪。

その感情だけを満たして白亜を凝視する。

女神が抱いた、三つ目の感情。

<哀れみ>

<慈しみ>

<憎しみ>

それは彼女の小さな心から溢れ、瞳から具現化して外にこぼれていく。とめどなく溢れていく。
止める術など知らない。
今はただ子供がわがままを言うように。
意味不明に泣き続ける様に。

心の空白を塗りつぶすように。

矛先を向けられた白亜にとってはたまったものではなかったが
自分が壱太を、どんな形であっても殺したという事実は
確かに存在しているのではないかと

心の底で震えているのだった―――。

女神の言葉が、白亜の心を刺し、殺していく。
死んでいく。

「私は、人間達を信じたかった」

「信じる?」

「そうよ・・・?どんな状況でも互いに助け合って生きていけると
そう信じたかった。

でも、どう?

他人を殺して、自分のためにだけ生きていくなんて
なんて愚かで汚らわしいの?!

もう悲鳴に等しい叫びだったが、
そのトーンが白亜の導火線に火をつけてしまった。

下唇を思い切り噛むと、目をしっかりと見開いて
ステップを踏むような足音を立てて、

向かい来る見えない茨にも動じず、鉄砲玉のように真っすぐ

何かが左腕をかすめ、皮を破り、そのしたに流れる
赤い水が吹き出る。
痛み。うずく痛み。

それすらも拭い去るとようやく女神の近くまで辿り付き、
剣を振り下ろす。

かすりもしない。踊るかのように攻撃を繰り出しても
女神も踊るように回避していった。

「人間は愚かだよ」

「――――」

「そんな事はあんたに言われなくたって

この星で

今を生きている人間達は自覚している!」

剣を大きく突き上げる。するとその切っ先が女神の
やわらかそうな肌に触れて、淡い光を放つ

「!」

「私が憎い?」

その初めて刻まれた傷口を押さえながらも、一定の距離を保って
睨み付けている。

「なら殺す?」

右手に握られた剣を悲しげな瞳で白亜は見つめ、
深々と、語るように呟く。




「殺しても、栄養以外は何も得る事ができなかったよ

この手が血に汚れていって、
この体が死臭にまみれていっても

ただ空虚なものが、残るだけだった―――――」

何も得られない。

無意味。

意味などを求めるなど無意味。

「じゃあ・・・・私はどうすればいい?

世界を破壊する事だけを命じられてきた、

それだけが私の存在する理由だったのに





そのほかの理由も見つけたのに
それすらも壊されて、

私は何のために生きればいい?」

「知った事じゃない」

神とは、なんなのだろう。

神が「自分の存在」を問うとは。
こんなにも人間と変わらないとは。

「いや」

「?」

「もうこれ以上

私の存在を否定しないで!!!!」

「白亜!!!!」

なにかが空を切り、獣が唸るような音を生み出しながら、

鈍痛と呼ぶよりかは鋭敏な痛みが腹部を直撃し、
体全体に寒気を覚える。

目の前が白いからなのか、

空間が白いからなのか、

視界にはなにも映っていない。

それでもゆっくりと体が地面に付く。

地面に倒れる衝撃は、すでに感じていなかった。

「白亜!!白亜?!」

「ぅ・・・・・・・・・・・っ?レ・・・ノ」

かすんでも見える彼の金色に光る髪。

そして、女神。
その表情までは読み取れなかったが、
呆然と立ち尽くしている事だけは解る。

「どう?・・・・・・人・・・殺した、きぶ、ん

あんま・・・・・・・いいものじゃないでしょう」

「―――」

「何も、得られなかったでしょう?」

「―――――――――」

口から血を、垂れ流し自嘲気味に、

「それとも、何も得られないということを得たのかしらね?」

げほっげほ、・・・・・・・・・痛っ・・・・・・」





あぁ、やっぱり、白いのは空間の所為だったのだ。

目の前は、真っ暗になり。

また、声がした。

喚ぶ

声。

本当に「あの世」にでも逝ってしまうのだろうか・・・・・・・・・?

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